Kabuki featuring Ebizo Ichikawa XI
7 June 2006
Sadler’s Wells, London
市川海老蔵の歌舞伎ロンドン公演観劇に、イギリス人・香港人・ドイツ人・日本人の混成チーム総勢8名で繰り出すことになりました。
私自身の歌舞伎の知識は‘外人’並。初めて歌舞伎を観劇したのもロンドンで、5年前に訪英公演した近松座の『曽根崎心中』でした。しかも仕事絡みで偶然に。
厳密には小学校の頃、学校行事として歌舞伎観劇したのが最初で、今思えば贅沢な経験ですが、小学生にはまさに豚に真珠。「歌舞伎って退屈」という記憶だけがトラウマのように残り、大人になっても興味が沸かない…という逆効果でした。でも、2001年の中村 鴈治郎(現:坂田 藤十郎)のロンドン公演は、「歌舞伎役者の演技ってすごい。結構面白いんだ、歌舞伎って」という‘目覚め’になりました。
歌舞伎への関心は演劇大国であるイギリスでは高く、チケットもほぼ完売に近い状態。私の周囲に声をかけると、なかなかこういう機会でもなければ歌舞伎に縁はないであろう友人達が、喜んで来てくれました。
会場であるサドラーズ・ウェルズは、バレエの発祥の劇場という伝統ある劇場で(施設は近年改装されたのでモダン)、ダンス関連の上演を中心にする劇場です。今回は一応花道をつくったり、歌舞伎ならではの緞帳(黒、オレンジ、緑の縞の)を下げたりして、略式の歌舞伎舞台というところ。
演目は『藤娘』と『色彩間苅豆かさね』です。
ロンドン公演では、英語のイヤホンガイドが活躍します。日本でも外国人向けに用意されているガイドですが、台詞の翻訳だけでなく、踊りや長唄などの意味や背景を解説するので、‘外人’の私にもありがたいものです。
さて市川海老蔵は、私でさえ名前を聞いたことのある人気者ですから、ロンドンで15ポンド(安い2階席・3000円程度)の安さで見れるのはラッキーなのでしょう。しかし、日本では歌舞伎という伝統の世界に新風を吹かす若き海老蔵がどれほど魅力的でも、歌舞伎自体を知らないロンドンの観客には同じようには見えません。
たとえば日本では『藤娘』は、‘あの海老蔵が女形に挑戦!’というのが話題なのかと思いますが…ロンドンの観客にとっては関係のない話題。逆にど素人の私から見ても、この女形は「肩幅ひろいなあ、男だなあ」と感じさせて、そんなに素晴らしいとは思えない…若手俳優を人間国宝と比べるのは酷ですが、5年前雁治郎が演じた女形には驚いたものです。当時60代の雁治郎が演じる19歳の乙女役…は正直いって苦しかったのですが(元気な頃の祖母を思い出して困った)、それでも仕草や演技はすごかった。
イギリスの観客は演劇についてはすごく目が肥えているので、‘男が女を演じてる’とか‘キモノがきれい’程度では驚きません。そのかわり、名演技は異文化でも理解できるし、ちゃんと評価する。その観客相手に、自分の専門分野外で挑戦するのは、ちょっと違うのでは…と思いましたが。
『かさね』の方の‘二枚目’役で登場すると、素直に「格好いいんだな」と思えて安心。演目としても、こちらの方が多少ストーリー性があるのでわかりやすいでしょう。
でも今回の公演では、台詞に頼らずに伝えられるから舞踏ものを選んだ…とインタビューで読みましたが、これにも疑問があります。日本舞踊の仕草の意味合いとかって、すごく微妙なものだし、解説なしにはわかりにくい。そして相当うまくないと、正直退屈。やはりもっと台詞のやりとり、物語や笑いがある方が、入りやすいのではないかと思いました(少なくとも私は)。
それにしても歌舞伎は「心中しよう」とか「恨んで、死んでからも呪う」などの話が多いのですが、これってまさに異文化。イギリス的には一家心中なんて「突然殺人鬼と化したお父さん、最後に自殺」だし、そして一旦あの世にいったお化けたちは現世の人を呪ったりしないので。「怨みって英語で何ていうか?」と、日本の大学助教授やら英国人編集者の友人たちと話し合ったけれど、grudgeとかresentmentなどの単語をあてはめても、もうひとつピンとこない。『かさね』の女性も、まさに日本的に陰湿な恐さですが、イギリスでも映画『リング』などホラー映画が人気を博した後だから、わかってもらえるかな…
『かさね』は基本的に男女の二人芝居ですから、若手ふたりで舞台をひっぱっていくのは大変だと思います。あまり笑いのポイントもなく、テンションの高さが続く芝居だし。
観客の反応にも苦労したろうと思います。日本だったら、掛け声や拍手が、欲しい時にピタリと入るでしょうが、ロンドンではそうはいきません。
ロンドン公演でも、‘大向こう’として掛け声をかける人はいました。実は、オーディオガイドの英語訳を担当したりしてるような、歌舞伎座の外国人の関係者がやってるんですけど(これは5年前の公演で裏方を務めて知りました)。彼らが、私たち(安いチケットの客)がいる2階席の隅に立ってて、いきなり「ナリタヤ!」「ニダイメ!」と英語訛で掛け声をかけ、その度に観客が驚いて「なんだ、なんだ?」とキョロキョロしてました。
その‘大向こう’役の人のリードで、観客側も、いわゆる「見得をきる」ところで拍手するらしい…とわかってはくるけれど、今ひとつどれが「見得」だか判断つきかねる…という戸惑いがあり、なーんか舞台と観客の一体感に欠けるのが、面白いといえば面白いのですが。
そんなわけですが、上演時間は休憩をはさみ正味1時間半と短い演目なので、私の周囲の歌舞伎初心者たちは異文化体験イベントとして楽しめたようです。5年前の歌舞伎公演で歌舞伎ファンになってた香港人には、ちょっと全体的に物足りないという印象。
私も、日本における若手の活躍は評価するけれど、海外に正統派歌舞伎をどーんと正面から伝えるには力不足を感じました。むしろ、いわゆるスーパー歌舞伎かなんかで、若さを前面に出してしまった方が、ロンドンの観客に受け入れられやすいのではないか、と。
演目の選び方に課題あり、とみましたが。素人のくせに、生意気でしょうか。

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